私は司法書士として独立して、今年で21年目を迎えます。4年前からは「フランチャイズアドバイザー」という資格を生かし、FC起業についても支援してきました。
企業の終身雇用が怪しくなった今、一度きりの人生だからと「起業にチャレンジしたい」という方が少なくありません。特に男性は、定年退職してから起業する方も多いのですが、最近は、定年退職前のいわゆる「脱サラ起業」を選択する方も増えてきています。
「法人」としてFC起業するなら「設立登記」が必要!
脱サラしてFCに加盟しようとする際、まず「個人」と「法人」のどちらでスタートするのかという選択を迫られます。「趣味程度の売上でよい」という場合には、個人で事業をスタートする方法が向いているでしょう。
しかし、「起業」というからには、いずれは人を雇ったり、大きな金融機関に口座を開設したり、大企業相手に取引したり、上場を目指したりという大きな夢を持っているはず。そうなると、法人でスタートを切ることになります。
「法人化=会社を設立する」ということですが、その際には「設立登記」が必要となります。また、法人にもいくつかの種類がありますので、どれを選択するのかも判断しなければなりません。出資者の責任が出資した金額に限定される「株式会社」、人的つながりが非常に強い「持分会社」、基本的に営利を目的とせず利益配当も行わない「一般社団法人」などです。
脱サラしてFC起業する場合、設立手続きのしやすさ、出資者の限定された責任、税務の扱いやすさ、世間からの印象といった観点から「株式会社」を選ぶケースがほとんどです。
設立登記の主な流れ7つのステップ
新会社法が施行されてから、会社の設立は極めて自由度が高くなりました。大まかな流れとしては以下の通りです。
- 1.発起人が会社の憲法ともいえる「定款」を作成する。
- 2.会社の株式の内容、商号、本店、具体的業務内容、役員などを決める。
- 3.会社の印鑑を作成する。
- 4.公証役場で「定款」の認証を行う。
- 5.発起人が出資金額を銀行口座に入金する。
- 6.定款、出資の証明などを添付して設立登記を申請する。
資本金はいくら?取締役は何人必要?設立登記の注意点
- ・資本金と発起人
- 会社の資本金の最低金額は1円です。加えて、設立にあたり最低1株を引き受ける発起人も1名で構いません。しかし、今後の展開を見据えた上で「資本金1円」の会社を金融機関や取引相手がどう認識するかと捉えると、自ずともう少し大きな資本金のほうがよいという判断になるでしょう。また、選択するFCが不動産関連などであれば、そもそも資本金の基準がある場合もあり、たくさんの方に出資をしてもらわねばその金額を集められないこともあります。あなたが選択するFCの業種・業態などにより、資本金の額の判断も変わってくるでしょう。
- ・商号
- 会社の名称のこと。類似商号という観念はなくなりましたが、同一市区町村内に同一名称の会社があると消費者が混乱するだけでなく、郵便物などの誤配も起こりやすくなります。また、あえて大企業と同じ名称の会社を興せば、不正競争防止法の観点から訴えられるケースもありますから、会社名を決める際には十分に注意しましょう。なお、会社名には英語や数字を入れることも可能です。
- ・会社の役員
- 新会社法施行前には「取締役が最低3名、監査役が1名必要」という制限がありましたが、今は撤廃されおり、取締役が最低1名いれば問題ありません。取締役が1名であっても、代表取締役と名乗ることも可能です。これも、あなたが今後どのような会社にしたいのかというビジョンをまとめることからスタートします。手軽に始めるのであれば1人取締役で、数人で役員となり、取締役会を設定し合議するほうがよいのであれば、そのような機関設計とします。
- ・会社の目的
- これも、FCでどのような業務を行うのかによって内容が決まります。FCによっては許認可が必要な場合もありますから、FC本部に事前に確認しておきましょう。許認可を取る段階で「目的にこの事項が抜けている」と、変更登記を余儀なくされるケースは多々あります。将来的に行う予定の事業が決まっていれば、この段階から定款に記載しておいたほうがよいでしょう。
- ・銀行口座
- 犯罪収益移転防止法が施行されて以来、新しい会社が銀行口座を開くことはかなり難しくなりました。まず、個人の時代から付き合いのある金融機関の口座に、出資者が資本金に該当する額を入金し、その通帳の写しを持って「資本金」として、法務局に他の書類と共に設立登記を申請します。会社の設立登記が完了し、登記事項証明書が発行されて初めて、新会社名の口座を開くことが可能となりますので、ご注意ください。
- ・設立登記日
- 会社の設立登記を法務局に申請した日が「会社の設立日」となります。年末年始や、土日祝日は登記の申請をすることができないため、会社の設立日にこだわる方は平日から選択することにご注意ください。今でも「大安吉日」にこだわる方も多く、司法書士の立場としては、設立日を決めていただいてから逆算し、押印書類を準備する方法を採ります。
- ・登記事項証明書
- 法務局に登記を申請して、10日から2週間ほどで登記が完了し、「登記事項証明書」と「会社の印鑑証明書」を取得することが可能となります。FC本部や、金融機関、許認可庁へ書類提出は、これらが取得できるようになってからとなります。登記事項証明書は、例えば取引相手でも費用を納めることで自由に取得することが可能です。
脱サラして起業すれば、社長として社会に対して責任を負うことになる
「大きな夢を抱いて、起業するために会社を興す」。会社の設立はゴールではなく、あくまでスタートです。
どんなに小さくても、脱サラして会社の社長となるあなたは、社長として社会に対して責任を負うことになるということを自覚しましょう。出資者の責任は出資した金額に限定されますが、社長として世間に認識されるあなたは、今までのようなサラリーマンではありません。法人としての納税義務も生じます。
脱サラしてFC起業をすれば、自由を手に入れるのと同時に大きな責任が発生します。高い志と強い責任感を持って、挑戦しましょう。
山口 里美
司法書士・フランチャイズアドバイザー
1993年司法書士資格を取得、旅行業から法律業へ転身する。1997年に事務所を開設し、現在は日本最大級の女性代表司法書士法人として全国9拠点にオフィスを構える。著書は11冊を数え、金融機関・生命保険会社など主催の講演活動は年間50回以上に上る。全国司法書士女性会理事/全国司法書士法人連絡協議会理事などを務めるほか、フランチャイズアドバイザーとしても活動中。東京・大阪の駅前にフランチャイズステーションを構え、司法書士の目線を活かして独立開業を支援。丁寧なヒアリング力で、相談件数は最多を誇る。
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